再現レシピ。『檀流クッキング』のイカのスペイン風

再現レシピ。『檀流クッキング』のイカのスペイン風

檀流クッキングとは

『檀流クッキング』は何度も読み返すお気に入り

檀流クッキングという本があります。小説家の檀一雄氏が世界を放浪しながら知りえた料理を再現しまとめたエッセイ集です。

檀氏はプロの料理人ではないし、正確なレシピを紹介することを目的にしていません。だから料理の工程が書かれているにもかかわらず、「醤油大さじ1」などといった細かな情報は一切入っていません。

でも、レシピの正確さと反比例するように文章の味わいは増していきます。細かいことは気にすんなという昭和らしい豪快さの中に、料理するのが楽しくてしょうがないウキウキとした茶目っ気があふれています。

例えば、ヒヤッ汁について

アジの身を入れたスリ鉢の方は、スリコギでトントンつき、アジの身をよくよくほぐし、ほぐし終わったら、丁寧に遠火であぶったみそも、残らずそのスリ鉢の中に加えなさい。
みそとアジとゴマの割合はどうするかって?どうだっていい。アジとみそを半々にし、ゴマを一割ぐらいのつもりでやってみてごらんなさい。

檀一雄(1975). 檀流クッキング 中公文庫 p.76

ずっとこんな調子です。ほかにも、ローストビーフの焼き方について

時折りのぞいて、下の野菜や、肉汁を肉塊にかけてみたり、肉塊を回転させてみたり、バターを足してみたり、ブドウ酒や酒をちょっとふりかけてみたり、いろいろ世話を焼く方が、おもしろくもあり、おいしくもある。

檀一雄(1975).  檀流クッキング 中公文庫 p.99

「いろいろいじっていると楽しいよ」なんて書くレシピ本を他に知りません。でも料理の楽しさって実際こうゆうところですよね。
自分の手の中で素材たちがじわじわと料理としてできあがっていく不思議さ。それが待ち遠しくて、ついつい触ってしまったり、いろいろ足してしまったり。
読んでいるだけでそんな気持ちが伝わり、作ってみたくなります。
こんなの普通のレシピ本ではひっくり返ってもできません。

あと料理についてのエッセイなのに、食べた感想が書かれていません。おいしいかどうかは自分で作って試してみなさいとでも言われているようです。
ほとんど食べた感想を書いていないからたまにボソッと書かれていると、あっ本当においしいんだなと思ってしまいます。

例えば、トウガンの丸蒸しスープについて

そこで、トウガンが半透明の色になるまで蒸す。蒸し終わったらドンブリのまま客に出して、スプーンでトウガンの壁を削り取りながら、スープと一緒に食べる。スープが無くなれば、鍋のスープをいくらでも足す。万歳である。


檀一雄(1975).  檀流クッキング 中公文庫 p.116

「万歳である」である。じわじわとした滋味深きおもしろさ。
こんな調子で、いくら読んでも腹の足しにならなくても、なぜかおいしいご飯を食べたような満足感が得られ、繰り返し何度も読んでいます。
レシピ本ではないのに、今日のご飯どうしようかと考えるときに本棚から引っ張り出してぱらぱらと読み返したりしています。

さて本の紹介はこのあたりにして、ここに書かれている料理たちが、決して空想のたぐいでなく、再現でき、みなさんの舌を満足させうることをご覧に入れよう。実に簡単で、実においしいものだから、大いにマネをして、大いにつくり、食べてみるがよい(檀一雄風)。

「イカのスペイン風」を再現

ここに紹介されている料理の中からいろいろと作ってきましたが、一番リピート率が高いのが、「イカのスペイン風」です。
なんともふわっとした名前だけど、そう目次に載っているのだから仕方がない。
文中には「プルピートス」と呼んでいますが、この言葉がイカ料理を指すのかイカ自体を指すのか分からないそうです。あえて私も調べません。
私にとって、これは檀一雄の「イカのスペイン風」なのです。

イカの身も肝も全部切って混ぜ、炒めただけのシンプルな料理ですが、これがご飯にもパスタにもパンにもお酒にもなんにでも合う万能料理なんです。
肝ごとぐちゃぐちゃに炒めるから見た目はあまりよくないですが、味は完璧です。

文中では詳細なレシピは紹介されていないので、何度か作ってみて落ち着いたレシピをここに記します。

材料

スルメイカ(”どんな種類のイカでも結構”だそうです)
オリーブオイル
塩…イカの可食部の1%ほど
胡椒…適量
酒…イカ1杯に対して大さじ1程度
ニンニク(今回はチューブ)…好きな量
唐辛子…今回は一本(好みに合わせて)
バター…好きなだけ

作り方

イカをさばくのは意外と難しくない

まずイカをさばきます。「イカをさばく」と言ったら難しそうに聞こえますが、非常に簡単です。
簡単なのに、すごそうなことをしているように見てもらえるためお得です。習得しましょう。
食べられない部分(軟骨、吸盤、くちばし、目、肝の先のうようよしたところ)を取り除いたら、肝も墨も一緒にぶつ切りにします。

ほとんどの材料をぐちゃぐちゃに混ぜる。これで4杯分。
二人で食べたけど、ちょっと多すぎた。

ボウルにバターとオリーブオイル以外の材料を一緒くたにしてよく混ぜます。
このとき唐辛子は輪切りにしておきます。辛いのが苦手なら種はしっかり出したり、そもそもいれなかったり調整しましょう。唐辛子の辛み成分は熱の影響を受けないので、一緒に炒める意味はあまりなく、最初から入れずに後から好みで一味をかけるというのでもいいと思います。
この状態で15分くらい放置します。

強火で一気に炒めます。まともにピントは合いません。

フライパンを強火で加熱し、オリーブオイルを入れます。
煙が上がるころにボウルの中身をひっくり返して、一気に炒めます。
イカの色が変わったら、バターを入れかき混ぜたら完成です。

色が変わったら完成。見た目はあれだけど味はいい。

切って混ぜて焼くだけですごく簡単です。
後はお皿に盛って出す。バゲットを炙って添えるとなおいいです。
バゲットにたれをたっぷりつけながら食べる。万歳である。

器は瀬戸本業窯の三彩です。





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