製品に使われる材料について思うこと
日本人は木が好きらしい。確かに好きですよね。
建築家の宮脇檀氏は著書「それでも建てたい家」の中で、「偏執的としか言いようがない木材愛好趣味」「日本人(の家に)木をたくさん使って怒られたためし、喜ばれなかったためしなし」と言い、あげく、「注文の多い建て主には目につく限りたとえベニヤや集成材であろうと木材を使い狂っておけばよい」とまで言っています。
あまりに日本人が世界中の木材を買うから、昔アメリカが原木の輸出を禁止したことがあるそうです。2×4インチ材しか輸出しないと制限した結果、建築基準を変更してまでそれを受け入れ広まったのが2×4工法の家だとのことです。(「それでも建てたい家」参照)
尺貫法がまだ使われている木造建築でインチという異質な寸法が混ざっているのはこんな理由があったんですね。
木が好きなのはいいのですが、好きすぎて「木目調」などが増えているのは正直残念な気持ちになります。
「っぽい」だけで材料は塩ビです。
ニトリなどを覗くと、本物と見間違いそうな木目の家具が売っています。
なぜ本物の木ではなく、あえて「木目調」になるのか。
値段など様々な問題があると思いますが、大きな理由の一つとして、無垢の木の形状の不安定性があります。
水分、湿気の影響で木が反ったり割れたり安定して製品を作るのに気を使うため(コストがかかるため)、見えるところだけ木目調のシートで覆うことになります。
塩ビという素材自体は水に強く、大量に安定して作れるなどいい面がたくさんあるのに、それを木目調としてしまうせいで、「偽物」になってしまうのはもったいないことだなと思います。
(塩ビは製造時にしわが出るためそれを木目の模様で隠しているという話も聞いたことはありますが。)
また、突き板や合板(プライウッド)は本物の木を使っているうえ、反りに強く、さらに形状の自由度も高いなど無垢にはない魅力のある材料です。
しかし、世の中での使われ方は「っぽく」見せるための無垢木材の代替材とされていることが多いようです。
そのせいで「化粧板」という呼ばれ方もされます。これもかわいそう。
「っぽく」見せるフェイクではなく、特性に応じた適材適所のものを使っていきたいものですね。
そのためにはそれぞれの材料の特徴をよく理解し、付き合い方を習得するのがいいでしょう。
つまり無垢材のものなら反りの原因を理解し、反らないように、反ったら直しながら使いこなす方法をしっかり知っておく必要があります。
無垢材のコースターの反りを直したい
あまりに大風呂敷を広げた書き出しをしてしまいました。
やりたいのは、反ってしまった無垢材のコースターを直したいということです。
ウォールナット削り出し。厚みのある無垢材だけど、リム部分は薄く、全体は直線ですっきりしており、やぼったくない。
つまりお気に入り。
大事に使っていましたが、うっかり濡らしたまま放置してしまったのでしょう、反ってしまいました。


こっちは曲がっていない。

コースターが曲がっていると不安定で、コースターとして成り立ちません。
数百円のものですが、直しながら使っていきたいです。
木はなぜ反るのか
直すためになぜ木が反るのか考えます。
木が成長して太くなっていくとき、年輪は内側からできるか外側からできるかどちらでしょうか。
玉ねぎやキャベツは内側から新しい組織ができていきますが、木の場合は外側にあたらしくできていきます。
つまり、内側の組織が古く、外側が若い。
外側の辺材(もしくは白太)と呼ばれる若い部分は、根から水を吸い上げているため水分量が多く、一方、中心付近の心材(もしくは赤身)と呼ばれる部分は水分が少なく固くなっており、木全体を支える役割を負っています。
名前なんてどうでもいいですね。
大事なのは「外側ほど水分が多い」ということです。

これをスライスして板にする場合のことを考えます。
中心から少しずれたところで板状に切断します(板目といいます)。
この板の中心に近いほうを木裏、反対側を木表と呼びます。
木表のほうが水分の通り道となるところに近いため、水分量が多くなります。
したがって、これを乾燥させると木表側の水分が多く抜け痩せるため、木表がへこむように、木裏が膨らむように反ります。

ただし、絶対に木表側に反るわけではなく、木表を濡らし続ければ木表が膨らみ反対に反ります。
実際に反ってしまったコースターを見てみます。
横から見ると年輪から木表、木裏が判断できます。確かに木表側に反っています。

正確なことを言うと、乾燥させたあとにコースターに成型しているため、コースターの状態からさらに乾燥して曲がったという理屈は間違っています。
乾燥によって曲がろうとする力 (内部応力) が蓄えられる。
→そのままコースター形状に成型。
→使っているときに濡れて木がやわらかくなり、蓄えられた力が解放。
→曲がる。
→曲がったまま乾燥する。
というのが正しいのでしょうが、小難しいので読み飛ばしていいです。
ただ、「製造側の乾燥不足」で曲がったのではなく「濡らしたまま放置」が原因で曲がったということは強調しておきます。
どう反りを直すか
水分量が変わると木が変形することが分かりました。
だから反りを戻すためには木表に水分を含ませて膨張させればいい、かと言えばこれは間違いだと思います。
水分を含ませて膨張させても、乾燥すればもとに戻ってしまうからです。
これを膨張した状態で戻らないようにしないといけません。
ここでヒントとなりそうなのが、先ほどの心材と辺材の違いについての説明です。
「辺材(外側の木材)は水分が多くやわらかい、心材は水分が少なく固い」というところ。
この仕組みがあるから、細いところはやわらかく風などを受け流し、太いところは固く支え高く伸びることができるのです。本当うまくできてます。
もう少しこの固い、やわらかいという性質を正確に言いかえます。
やわらかいというのは、外から力を加えられたときにたくさん変形するということです。
水分をたくさん含んだ木の枝は力を加えるとよくしなります。
一方、固いというのは、力を加えられてもあまり変形しないということです。
よく乾燥した枝は、力を加えると曲がらずにぱきっと折れてしまいます。
もっと詳しく言うと、この力に対する変形を弾性率といい、「やわらかい=よくしなる=弾性率が小さい」、「固い=しならない=弾性率が大きい」となります。
小難しいですね。でも続けます。
この関係を調べたら出てきました。「ティンバーメカニクス:木材の力学理論と応用」という本に、ヒノキの弾性率が載っていました。
木材の含水率が30%以下になると弾性率が上がる(固くなる)ことが分かります。
さらに同じ文献から熱を加えるとさらに柔らかくなるということが分かりました。

これから、反りを戻す方法が考えました。
コースターをよく濡らした状態にしてやると曲げやすくなります。お湯だとなおよい。
この状態で重りなどで徐々に力を加えて正常な形状に戻します。
このまま重りを外すとそのまま反った状態に戻ってしまいます。
そこで、重りを乗せたまま乾かすと、弾性率が高くなり、反った状態に戻ろうとする力を内部に蓄えながらもそれに対する変形が抑えられる、つまり正常な形状に戻ったままになる!完璧な作戦!のはず。

実際にやってみる
実際にやってみようと思います。
まず80℃くらいのお湯の入った容器にコースターを浸します。
お湯が100℃じゃないのはあまりに高温だと悪影響がありそうだと思ったからです。根拠はありません。
このまま10分ほど漬けました。

そうすると明らかに柔らかくなりました。手で力を加えて曲がる程度。
測ると15kg相当の力でまっすぐになります。
ただ15kgでずっと押さえつけておくものがないため、板で挟みクランプしました。
これが失敗のもと。
クランプを締めていったらぱきっと嫌な音が。。
コースター割れました。。
端の薄いヘリのところが。。
え~~~~。


重りを乗せるやり方なら15kgに近づけるように徐々に加えられたのに、クランプだと締めこんでいくときにどれだけの力を加えているのか分からないんですよね。
あとクランプを探している間放置してしまったため、薄いヘリは乾いてしまったのでしょう。
乾いてしまうと力を加えても曲がらなくなります。
あとあと、曲がっているのを無理やり伸ばすのでこのヘリの薄いところに引っ張る力が加わります。
木は圧縮の力には強いですが、引っ張る力には弱いようなので、それがうすいところに効いてしまったのも敗因でしょう。
なんとでも理由は考えられるけど、割れてしまっては。。
で、反りは矯正できたのか
割れてはしまいましたが、考えた通りに反りが矯正できたかは確認します。
クランプしたまま30分放置しました。
見た目には乾いていたので板を外しました。
すると見た目にはほぼまっすぐに。
ただ10分ほどで徐々にまた曲がってきました。
それでも反りは1.5 mm程度と最初よりはましになっていました。
30分では乾燥が不十分だったと思われます。

それでも最初よりはまっすぐになってます。
(割れたショックで写真が適当)

まとめ
反りが合わないときもある。
だけどうまく付き合っていきたいから、
必死で相手のことを考えて、調べて、準備して努力してみる。
でもそれが結局重すぎたのでしょう。破滅です。
なんの話?木の話。
ショックな結果です。
もっと長く水につけておけば、ゆっくり力を加えれば、一発で矯正せず、何度かに分けてやれば。
いろいろ後になって考えれば思うけど、割れてしまうと。。
数百円のものですが、値段の問題じゃないんですよね。
物を大事にしたいって気持ちでやったのにこうなってしまったのがショックです。
とはいえ、ここに書いたことは大きく間違っていないと思うので、無垢のもので濡れたまま放置する可能性のあるもの(箸、箸置き、お皿、スプーンなど)は、こんな理屈で矯正できる可能性がありますよという紹介でした。
その前に、反らないように濡らしたまま放置しないようにしましょう。
また、無塗装だと水に弱いので何か塗るといいでしょう。
食器関係なら、蜜蝋だったり、オリーブオイルだったりでたまに表面を塗ってあげれば反りにくくなるでしょう。
さんざん小難しく書いたのに、失敗して、当たり前のことを書いて終わります。
あ~ショック。
追記
今回の「濡らして柔らかくし成型してから乾かす」方法は昔から曲木の工法として知られてきました。
曲木椅子について書いたので参考に読んでいただければ。