椅子好きが選ぶ最高の椅子 「No.14」。その魅力とは。

椅子好きが選ぶ最高の椅子 「No.14」。その魅力とは。

椅子が好きです。
2人暮らしの小さなアパートで10脚以上の椅子に囲まれて生活し、次の椅子を買うためにいかにスペースを開けようかと日々考えています。

そんなに椅子がいるかと聞かれることがありますが、良い椅子を置いたらそれをじっくり眺めるために座る椅子が必要で、その椅子をまた眺めるための・・・。
終わりはありません。

そんな椅子好きなわけですが、無人島に椅子を一脚だけもって持っていくとしたら?と聞かれたらこれだと即答するほどダントツに好きな椅子があります。

それはトーネットの曲木椅子No.14。

我が家のNo.14。イケメン

見たことないという人のほうがいないのではないでしょうか。
約150年前からほとんど変わらず作られ続け累計2億脚生産されたともいわれています。
世界で最も売れた椅子としてハンスウェグナーのYチェアが紹介されていることがありますが、どう多く見積もっても200万脚ぐらい。
まさに桁違いのロングベストセラー。

同タイプのものやこれに影響を受けたであろう椅子たちが、カフェやレストラン、フードコート、サービスエリアなど当たり前のように日常に溶け込んでいます。

ただ家庭でダイニングチェアとして使用している人は少ない印象。
海外インテリアの実例などには非常に多く出てきますが、日本ではインテリアにこだわる人が選ぶダイニングチェアとしてはデザイナーズチェアと呼ばれるものが多い印象です。
例えばハンスウェグナーのYチェア、ヤコブセンのセブンチェア、イームズのシェルチェアなど。

これらももちろんいい椅子で、全部欲しい。
ただ非常に人気があるため、廉価なコピー品があふれているところを見ると、おしゃれな椅子は欲しいけどそこまでお金は出せないという需要がたくさんあるということでしょう。

デザイナーズチェアのような素敵な椅子は欲しいけど予算が足りないという方がいたら、安易にコピー品、ジェネリック品のようなものに手を出さずにここで紹介するNo.14を選択肢に入れてみてください。
150年以上構造がほとんど変わらず、売れ続けているのには理由があります。

構造のシンプルさ(ゆえの堅牢さ、軽さ)、美しさ、歴史的エポックメーキングみ、 手の出しやすい価格、 どんな面で見ても素晴らしいこの椅子についてこの魅力について語らせてください。
もっと評価されてもっとみんな愛でるべき。

トーネットの曲木椅子への誉め言葉(「トーネットとウィーンデザイン」1996)
意訳「コスパ最高」

構造がシンプルで堅牢

まず特徴的なこの形状についてです。
それとも特徴的には見えないでしょうか?
それはこの木を自在に曲げる技術が便利なため、今では当たり前のように様々なところで見られるようになって見慣れてしまったからです。

特徴的なのに、見慣れた形

この無垢の木材をぐにゃりと曲げる曲木技術は、ドイツ片田舎の家具職人ミヒャエル・トーネットによっておよそ150年前に、量産技術として完成されました。
それまでの様式の家具でも曲線を用いたものはありましたが、木の塊から削り出すなど無駄の多い方法でした。

これに対して、トーネットが開発したは、広葉樹の丸棒を蒸しあげたまま型にはめ込み乾燥させることで形状を固める方法です。
Youtubeに現在のトーネット社による動画があったのでぜひ見てください。ぐにゃりと木が曲がっています。
水分と熱により気を柔らかくし、乾燥させることで固くする方法については、前に反ってしまった無垢材を直す方法として紹介したことがあるのでよかったらそちらも参考にしてください。

まっすぐだった木がぐにゃりと曲がっています

自由度高く効率的に形状を作り出せるようになり、必要最小限の構造で堅牢な椅子を作ることができるようになりました。
それにより、No.14はたった6つのパーツだけで構成されています。
ただし、背もたれと座面をつなぐように小さなパーツがついているバージョンもあります。

背もたれ後ろ脚パーツと座面の間を補強するパーツがついているものもあるが、
ないほうがかっこいいし、なくても強度は十分

身の回りの椅子を見て、たったこれだけのパーツでできているものはなかなかないでしょう。
これだけパーツが少なくなることで、むしろ故障することが減ることが考えられます。実際、その丈夫さは100年近く前のビンテージがざらに売られていることからも想像できます。

堅牢とは言いましたが、それはがっちりしたものではなく、むしろ木のしなやかさをもちいた柔軟性のある構造になっています。体重をかけると脚は軽くしなり、4つの脚はしっかり地に着くようになります。
背もたれも適度にしなることで体重を優しく支えます。
曲げ木という製造方法に適した木材、形状がそのまま椅子の機能にも生かされているところが素晴らしい。

すくないパーツでしっかりした構造

美しい

「形態は機能に従う」という言葉は、モダンデザインを最もよく表す言葉でしょう。
見た目のかっこよさを追うのではなく、機能に忠実であれば必然的に美しくなるという意味です。

この言葉はアメリカの建築家の言葉で近代建築の指針であり、ヨーロッパにおいてはバウハウスの機能主義が同様の考え(Less is more)を示し、日本でも柳宗悦らによる民藝運動もまた「用の美」として庶民の生活に根付いた日用品に美を見出しました。

これらのここ1世紀ほどに世界中で現れた美への考え方は、伝統を許すか壊すか、機械生産と手仕事どちらが優れているかなど違いはあっても、「使いやすさと美しさは不可分」であるという点で一致しています。

難しく考えすぎました。
たとえて言えば、無印良品の店に行ってシンプルな製品にいいなって思う気持ち、iittalaのティーマのような北欧食器を素敵だなって思う気持ち、柳宗理デザインのカトラリーを使いやすくていいなって思う気持ちなどのことを言っています。
使いやすさとおしゃれさは、どっちかをとったらどっちかを捨てるものではなく、自然と両立できるものだ(であるべきだ)ということです。

横顔もいい

そしてこれらの考えが生まれる何十年も前に、デザイナーなどではない、一人の職人によって、完璧に実現されたのがこの曲木椅子No.14だと思います。

トーネットはかっこいい椅子を作ろうとしたわけではなく、軽く、丈夫で、安い庶民の椅子を作れるか考えました。
そうして生まれた曲木という当時の革新的な技術によって、それまでにない新しい形状の椅子が作られ、そのしなやかさは座り心地を助け、そして結果として美しくなりました。

もちろん、機能に関係ないところをすべてないがしろにしているという意味ではありません。

各パーツはねじ止めされていますが、それは表からは見えないように工夫されており、脚は有機的なテーパーがつけられ、U字パーツの端は斜めにカットされ接合が自然になるようにされています。

ねじは表から見えないようになっている
脚のてーばーや接合部の処理など細部まで丁寧に作られている

我が家にあるのは濃い茶色で塗装されています。これがもっともオリジナルに近いからです。
ただクラシカルな雰囲気が好みでないという場合は白木のものやクリア塗装のものもあります。
素材はビーチ材であり、新品のときは淡い桃色がかった白っぽい色です。
Yチェアにも使われている素材のため、北欧の家具と一緒に使ってもなじむと思います。
Yチェアのアームも曲木ですしね。

無塗装のものを買って、自分でオイルで仕上げたり、塗装したりするのもありだったなと思っています。

エポックメイキング

まだまだすごいところがあります。
ここまで読んでくれるもの好きな方はいるのでしょうか。
いたら本当ありがとうございます。

さて「エポックメイキング」という視点でも見てみます。
エポックとは「時代」、メイキングとは「作り出す」。つまり画期的であるという意味で、名作椅子の条件の一つとして挙げられています。

大げさかもしれないし、知らなくてもいい(座れればいい)話ですが、椅子をこだわって買うならその背景も知っていた方が、ずっと満足度は上がると思います。

例えば、アルネヤコブセンのアントチェアは合板技術により世界で初めて背もたれと座面を一体で作ったし、イームズのシェルチェアは一体樹脂成型により初めてシェル構造を作り出しました。だから「画期的」で名作なのです。

もっと身近なところだと、無印良品の「ダメになるソファ」の元となった1968年デザインのサッコはバカでかいクッションを椅子だと言い張ったとして画期的。
IKEAのポエングの元となったアアルトのNo.406は、あんなに不安定そうな構造(カンチレバー)を木でやってのけたことが画期的。

文字が多いので写真。
ケーン張りの座面も座り心地がいい。

No.14に話を戻します。
どうエポックメイキングか。
なによりもまず「世界で初めての大量生産家具」であるということです。
これによって庶民が安価に椅子を手に入れられるようになったのです。

昔は権威の象徴だった椅子が、ここで完全に庶民のものとなったのです。
これほどのエポックメイキングはないでしょう。

安く大量に作るために様々な工夫がされています。
例えば、材料と労働力が安く手に入る山間部でパーツを作り、市場のある都市部で組み立てるノックダウン方式の採用です。
大量のパーツをコンテナにぎっしり詰めることで梱包容積は完成品の1/8で済み、これを当時発達し始めた鉄道で運びました。
このノックダウン方式はIKEAなどの組み立て家具の元祖と言えるでしょう。

職人でなくとも組み立てられるように、ねじ・ボルト締めによる組み立てを家具で初めて採用したと言われています。
ねじ自体千年で最高の発明と言われていますが、これが曲木という発明と組み合わさってノックダウン方式を実現できたのです。

これにより、圧倒的に安価に椅子を生産することができるようになりました。
それまではビーダーマイヤー方式と呼ばれる市民のためのデザインの潮流がありましたが、職人による手仕事で高価なものでした。
(庶民のための椅子として、ウィンザーチェアとか「ゴッホの椅子」などもありましたが、また別の機会にまとめてみます)

現在でも非常に安く手に入れられ、私の椅子は去年個人輸入で2万7000円くらいでした。(購入方法は後述)
チェコ→スウェーデン→日本の輸送費込みでの値段のため、ちょっと安すぎるくらいです。

この椅子がなければ、庶民のための椅子が生まれず、その後の名作椅子も生まれなかったかもしれません。
IKEAやニトリの組み立て家具も生まれなかったかもしれません。
この椅子は近代の椅子の原点とも言え、そんな影響力のある椅子がたった3万円もしないなんてすごいですよね。

補足ですが、我が家にある椅子はトーネット社のものではなく、トン社のものです。
トーネットの椅子と言いながらトーネット社のものではないとは偽物かと思われるかもしれませんがそれは違います。
当時のトーネット社は非常に大きな会社でヨーロッパ中に工場を持っていました。それが大戦の影響で分解され、一部が軍需で国営化されるなどの影響を受けています。
その結果、当時のトーネット社につながる会社が複数存在しています。
トン社はその中でも最大の工場、チェコのビストリッツェ工場を起源としています。
トーネット社の歴史についてもネット上に情報がないのでまたまとめてみます。

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まとめ

大好きな椅子No.14についてその魅力を語りました。
街中でも何気なく日常に溶け込むように使われていますが、そこに使われている技術のすごさ、歴史の深さ、ものとしての完成度を知れば見る目も変わるかと思います。

ただ肝心の座り心地や、どうやって購入したかを書いていないので、その辺はまたいずれ。

左側のNo.6009もいい椅子(TONではNo.30)

参考文献

椅子買うと高いけど、本は安くて知識も増えていいですね。椅子との相性もいいですし。

K・マンク著 宿輪吉之典訳, トーネット曲木家具(SD選書), 鹿島出版会, 1985
加藤晃一他, ウィーンの曲線 トーネットの椅子, 株式会社INAX, 1983
加藤晃一他, トーネットとウィーンデザイン1859-1930, 光琳社出版, 1996

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